船舶免許
2026年08月25日 07:45
昨夜、羽田空港沖でクルーザーが防波堤に衝突する事故がありました。報道によると、「24日午後7時すぎ、羽田空港に近い川崎市浮島沖で、10人が乗ったクルーザーが防波堤付近に乗り上げました。船は東京・夢の島方面から横浜方面へ向かっており、花火大会を見に行く途中だった」と報じられています。
乗っていた人たちは全員救助されたものの、複数の負傷者がいて、重傷者もいるそうです。せっかくの楽しい洋上花火鑑賞が、一瞬にして修羅場と化してしまったことが報道から読み取れ、なかなかに大変な状況だったことでしょう。
テレビで事故後の映像を見て驚いたのが、船の止まり方でした。もちろん、事故原因については海上保安庁などの調査を待たなければ分かりませんが、事故後の船体を見る限り、防波堤に対してかなり正面に近い形で乗り上げているように見えます。これを見て改めて思ったのが、「GPSに頼りすぎる怖さ」です。
今のクルーザーにはGPSプロッターや電子海図などが装備されているものも多く、自船の位置を画面上で確認しながら航行できます。昔のように紙の海図とコンパスだけを頼りに航行していた時代と比べれば、現在地を把握すること自体は格段に簡単になりました。
しかし、GPSはあくまでも「自分がどこにいるのか」を知るための道具です。自動車のカーナビのような感覚で画面を見ていれば、前方の障害物を自動的に避けてくれるわけではありません。
特に東京湾は、見た目以上に航行が難しい場所だと思います。大型船、貨物船、タグボート、漁船、プレジャーボートなど様々な船が行き交い、航路や浅瀬、埋立地、防波堤、護岸などもあります。
昼間なら簡単に見える構造物でも、夜になると話は別です。陸上には工場や空港、港湾施設など無数の照明があり、その中から船舶の灯火や航路標識、防波堤などを瞬時に識別しなければなりません。しかも海には、自動車の道路のように進行方向を照らしてくれる街灯もありません。
だからこそGPSや電子海図が普及した現在でも、最後に頼るべきなのは「目で見ること」なのだと思います。
GPSで現在地を確認する。
電子海図で航路や障害物を確認する。
レーダーがあれば周囲の船舶や構造物を確認する。
そして何より、実際に前方を目視する。
そのすべてを組み合わせて航行することが重要なのでしょう。
特に夜間にそれなりの速度で走るのであれば、数十秒の確認不足でも船は相当な距離を進んでしまいます。例えば20ノットなら時速約37kmですから、1秒で約10m、10秒なら100m以上進みます。海の上では速度感が分かりにくいのですが、実際にはかなりの速さです。
さらに自動車と違って、船はブレーキを踏めばその場で止まれる乗り物ではありません。危険を発見してから減速しても、そのままかなりの距離を進みます。だから「見えてから避ければいい」では遅い場合があります。
今回の事故が、GPSや電子海図の確認に関係するものだったのか、操船上の問題だったのか、速度の問題だったのか、それともまったく別の原因だったのかは現時点では分かりません。そこは今後の調査結果を待つ必要があります。
ただ、今回の映像を見て改めて感じたことがあります。GPSが高性能になっても、電子海図が便利になっても、それだけで海が安全になるわけではありません。
むしろ便利な機器が増えれば増えるほど、「画面に表示されているから大丈夫」という思い込みには注意する必要があります。そうした油断をしないことこそ、昔も今も変わらない航海の基本なのではないでしょうか。
私自身は船舶を保有したことはありませんが、イベント会社時代は会社にクルーザーがあったので、2ヶ月に1度程度は会社の指示で操縦する機会がありました。何人も北新地のホステスさんを乗せて、会社の役員とお取引先の方を乗せての接待航行です。
その時によく言われたのが、「イキっとったら事故るぞ。気をつけろ!」という言葉でした。「イキる」とは関西弁で、調子に乗る、格好をつけるといった意味です。若い頃の私に対して、水着のホステスに囲まれて調子に乗ってたら危ないぞ、という戒めだったのでしょう。今になって考えると、なかなか的を射た言葉だったと思います。
また、岡山勤務時代は、お取引先各社の社長が結構な比率で船をお持ちだったので、こちらでも操縦する機会が複数ありました。
今でこそ自身で船舶を操縦する機会はほぼゼロになり、10年以上が経過しています。神戸・カナダ・大阪・岡山・東京と引っ越して来ましたが、穏やかな東京湾に面しているのに、東京が一番、船舶保有者に出会う確率が低い気がします。まずマリーナすら目にする機会がほとんどありませんからね。
とはいえ、今後も操縦する機会が無いとは限りません。今回の事故を他人事として見るだけではなく、今一度、最近の航海機器や操船、安全航行についての知識を得る機会を設定したいと思いました。
「イキっとったら事故るぞ。気をつけろ!」何十年も前に言われた言葉ですが、便利な航海機器が増えた今だからこそ、改めて思い出しておきたい言葉なのかもしれません。
最後になりましたが、今回負傷された皆様の一日も早い回復をお祈りするとともに、事故原因がしっかり究明され、同じような事故の防止につながることを願います。









