消費者
2026年08月24日 06:30
今年1月30日に「とうとう始まったコメ価格下落」というブログを書きました。きっかけは、ドン・キホーテ五反田東口店で久しぶりに政府備蓄米が山積みになっているのを見かけたことでした。写真もその時の普通米売場です。かなり乱れていました。当時私は、「業者には小里備蓄米/江藤備蓄米/小泉備蓄米が残っているところへ、高値で仕入れた2025年産米まで入ってきたのだから、そろそろ米の処分が始まるのではないか」と書きました。
もう一つ、そう考えた理由がありました。じつは私の知り合いに大手米卸で働く者がおり、以前から「夏場は在庫維持のために低温保管が必要で電気代がかかる。そこまでして持ち続けるより、安くても売ってしまおうという業者が出てくるのではないか」という話を聞いていました。
農林水産省によると、2026年6月末の民間在庫量は194万トンでした。前年2025年6月末は122万トンでしたから、わずか1年間で72万トン増えています。率にすれば約59%増です。前年より米が72万トンも余計に倉庫に積み上がっているわけです。
さらに2025年産米について見ると、2026年6月末までの集荷数量は268.7万トンで、前年同期より25.9万トン増えています。ところが販売数量は150万トンで、逆に前年同期より26.5万トン減っています。つまり「前年よりたくさん米を集めたのに、前年より売れていない」という状態です。
これから2026年産の新米が本格的に入ってきます。現在倉庫に積み上がっている米を売り切ってから新米を仕入れる、なんて都合のいいことはできません。2026年産米について、値段の高い時期に契約してしまった業者もいるでしょう。
在庫量がこれだけ増えている以上、価格への下落圧力は強まります。販売量が減っていることから、消費者の米離れも深刻です。
2025年産米の相対取引価格は2025年10月をピークに下落基調に入り、2026年6月には全銘柄平均で60kg当たり31,305円まで下がっています。それでも、まだ高い。だから売れない。売れないから在庫が増える。在庫が増えるから値下げして売る。値下げすれば、高値の在庫を持っている業者は損をする。そんな状況がしばらく続くのではないでしょうか。
そして、ここで忘れてはいけないのが消費者側の変化です。2024年から2025年にかけて「米がない」「スーパーから米が消えた」「5kg5000円になった」と、テレビも新聞も連日のように米不足と価格高騰を取り上げました。消費者も「高すぎる」「政府は何をやっているんだ」と大騒ぎしました。
その結果、政府は備蓄米を放出し、最後には大手小売業者などへ直接売り渡す随意契約まで実施しました。
ところが、高くなった米を買い続けられない消費者は当然ながら生活防衛に走ります。簡単に書けば、パンや麺類、シリアルなどに流れたという感じです。一度米食から離れてみれば、食べる数十分前から炊飯するより簡単なものはいくらでもあるわけで、手軽な方へ日本人の食生活そのものが変わってしまいました。
以前の記事にも書きましたが、わが家もすっかり米を食べない生活に慣れてしまいました。私はこれこそ、今回の米価格高騰が残した一番大きな問題ではないかと思っています。
一度変わってしまった生活習慣は、米が500円安くなったからといって簡単には元へ戻りません。そして皮肉なことに、今度は米が余り始めました。
値上がりするときには「米が高い」と社会全体で大騒ぎしたのに、値下がり局面になって「安くなって助かった」とは言っても、その裏側で誰が損失を負担しているのかには、ほとんど関心が向きません。
政府も米価高騰時には備蓄米放出など次々と対策を打ちましたが、価格下落局面で農家の収入が急激に落ちることについて、同じような社会的関心が集まっているようには見えません。
そして最後にしわ寄せを受けるのが、米を作っている農家です。すでに2026年産の早場米では、農家へ支払われる概算金が大幅に下がり始めています。宮崎県の早場米コシヒカリでは、2025年産の60kg当たり3万2600円から、2026年産は1万8000円へ。実に4割以上の下落です。
もちろん概算金は最終的な農家の受取額ではありません。JAが米を販売した後、販売実績に応じて追加精算される仕組みです。とはいえ、これだけ最初の金額が下がれば、農家からすれば不安になるのは当然でしょう。
米の販売価格が下がっても、肥料代、農薬代、燃料代、農機具代、人件費まで一緒に4割下がってくれるわけではありません。むしろ上がっています。
ここで農家が、「去年は米が足りないと言われたから頑張って作ったのに、今度は米が余ったから安く買います、ではやってられない」と思っても不思議ではありません。
まして日本の米農家は高齢化しています。あと10年、20年農業を続ける若い人なら価格回復まで頑張ろうと思うかもしれませんが、高齢の農家なら「これを機会にやめよう」と考える人が出てきても不思議ではありません。
田んぼを手放し、農機具を処分してしまえば、再び米が足りなくなったからといって簡単には戻ってきません。
以前は食糧管理制度のもと、国が米の価格や流通に深く関与していました。もちろん昔の食糧管理制度に戻せという話ではありません。しかし、価格が上がれば消費者が米から離れ、下がれば農家が米作りから離れ、その結果また米不足になるという繰り返しでは困ります。
日本人の主食である米くらいは、市場原理だけに任せず、国が価格と需給をある程度コントロールし、消費者も生産者も安心できる仕組みを作る必要があるのではないかと思っている私です。









