株価急落

2026年07月14日 01:50

homeplus韓国のKOSPI(韓国総合株価指数)は、昨日7月13日に約9%急落し、一時的に取引停止(サイドカー)が発動されるなど、大きく値を崩しました。

今回の急落は、AIブームの象徴だった半導体大手SKハイニックスが1日で15%を超える下落となり、サムスン電子も10%を超える下落し、KOSPI全体を押し下げました。利益確定売りに加え、AI向けメモリー需要の先行きや2027〜2028年の供給過剰への懸念が背景にあります。

そんな韓国では、株式市場だけではなく、小売業界でも大きなニュースが飛び込んできました。経営再建中の韓国の大手スーパー「HOMEPLUS(ホームプラス)」に対し、裁判所による企業再生手続きの廃止決定が出され、資金繰りの悪化から各地で営業停止や一時休業が相次ぎ、事実上の営業継続が困難な状況に陥ったと報じられています。

単に不採算店舗を何店か閉めるというレベルではありません。韓国を代表する大型スーパーが存続の危機に立たされているのです。このニュースを見て、私が最初に思い出したのは、ソウルワールドカップ競技場でした。

2002年の日韓ワールドカップで使用されたソウルワールドカップ競技場は、サッカーを見るためだけの施設ではありません。スタジアムの下や周辺には、大型スーパー、映画館、飲食店などが入った商業施設が整備されています。

最初にここへ入っていた大型スーパーは、フランス系の「カルフール」でした。その後、この店舗はカルフールからホームエバーへ、さらに現在のHOMEPLUSへと姿を変えています。

カルフールは1990年代から韓国へ進出し、大型店を展開していました。しかし、韓国の消費者や商習慣への対応に苦戦し、2006年に韓国市場から撤退します。

ちなみに、日本市場への参入は2000年、撤退は2005年でした。当時は「黒船来航/世界第2位の小売企業が日本へ」と話題になりましたが、日本市場でも成功することはできませんでした。

韓国国内のカルフール店舗を買収したのは、衣料品や流通事業を展開するEランドグループでした。買収後、店舗名は「ホームエバー」へ変更されます。

ところがEランドも、カルフール買収による多額の借金を抱えていました。さらに非正規雇用問題による大規模な労働争議や営業不振も重なり、ホームエバーは巨額の赤字を計上。買収からわずか2年ほどで、再び売却されることになります。

2008年にホームエバーを買収したのが、当時イギリス最大手スーパー「テスコ」の傘下にあったHOMEPLUSでした。こうしてカルフールの店舗はホームエバーを経てHOMEPLUSへと変わっていきました。ソウルワールドカップ競技場の店舗も、その一つです。

ちなみにテスコも日本へ進出しています。2003年に「つるかめランド」を買収して日本市場へ参入しましたが、こちらも2011年に撤退しました。カルフールもテスコも、日本市場では成功できなかったのです。

ただし、HOMEPLUSそのものはカルフールを引き継いで誕生した会社ではありません。1997年にサムスン物産の流通事業としてスタートし、1999年にはサムスンとテスコによる合弁会社「サムスンテスコ」となりました。

テスコは韓国へ資金や小売ノウハウを持ち込み、HOMEPLUSは急速に店舗網を拡大します。さらに2008年には旧カルフール系のホームエバー約35店舗を買収。これによってHOMEPLUSは韓国第2位の大型スーパーへと成長しました。

つまりHOMEPLUSには、
・サムスンとテスコが新規出店した店舗
・カルフールからホームエバーを経て引き継いだ店舗
この2種類が混在していたことになります。

HOMEPLUSは、時代遅れのスーパーだったわけではありません。2011年にはソウルの地下鉄駅に「バーチャルストア」を設置し、世界中から注目を集めました。

駅構内の壁いっぱいに商品棚を再現し、利用者は商品のQRコードをスマートフォンで読み取るだけで買い物ができます。注文した商品は自宅へ配送されるため、会社帰りに重い米や水、日用品を持ち帰る必要がありません。

当時はまだスマートフォンもネットスーパーも現在ほど普及していませんでした。「お客様を店舗へ呼ぶのではなく、駅そのものを売場にする」という発想は非常に斬新で、世界中のマーケティング関係者が視察に訪れました。実は私も、ソウルまでこのバーチャルストアを見学に行った一人です。

当時は「未来の買い物はこうなるのか」と感心したことを今でも覚えています。だからこそ、今回のHOMEPLUSの経営危機は本当に信じられませんでした。

順調に見えたHOMEPLUSですが、大きな転機が訪れます。2015年、テスコは本国の経営再建を優先するため、韓国事業を売却しました。

買収したのは韓国最大級のプライベートエクイティファンド(PEファンド)であるMBKパートナーズです。買収額は約61億ドル。アジア最大級のLBO(レバレッジド・バイアウト)案件でした。LBOとは、企業の資産や将来の利益を担保に、多額の借金をして会社を買収する手法です。

もちろん成功すれば大きな利益になります。しかし利益が伸びなければ、買収時の借金そのものが企業経営を圧迫します。HOMEPLUSは、まさにその状況へ陥っていきました。

もちろん、経営悪化をMBKだけの責任にすることはできません。韓国の流通業界そのものが大きく変化したからです。特に大きかったのはクーパンなどネット通販の急成長でした。

水や米、日用品まで翌日には自宅へ届く。そうなれば郊外の大型スーパーへ車で行く必要は減ります。一方、大型スーパーは広い売場、駐車場、人件費、光熱費、設備更新費など莫大な固定費を抱えています。

売上が伸びている間は店舗数が武器になります。しかし売上が減れば、その店舗網が重荷へ変わります。新型コロナウイルスも消費者をネット通販へ移行させる大きなきっかけとなりました。HOMEPLUSは、重い財務負担を抱えたまま、業態そのものの変化に直面することになったのです。

HOMEPLUSは2025年に企業再生手続きを申請しました。しかし裁判所の調査では、営業を続けるより資産を売却した方が価値が高いという厳しい結果が示されました。

MBKも約2兆5,000億ウォン相当の株式を放棄すると表明し、事実上、投資案件として失敗を認める形となりました。現在は買い手探しが続けられていますが、資金繰りは極めて厳しい状況です。

報道では、商品がほとんど無くなった売場や、撤退準備を進めるテナント、半額セールへ殺到する買い物客の姿が伝えられています。

スーパーは毎日現金が入ってくる商売です。しかし、その裏では毎日、仕入代金、人件費、物流費、電気代が支払われています。資金繰りが止まれば商品は入荷せず、売場は少しずつ空になっていきます。これは閉店セールではなく、企業の信用が失われた結果なのです。

今回のHOMEPLUS問題は韓国だけの話ではありません。日本でも大型総合スーパー(GMS)は苦戦しています。フランス・カルフールは撤退。イギリス・テスコも撤退。アメリカ・ウォルマートも西友を売却して日本市場から撤退しました。イトーヨーカドーも大量閉店を進めています。

一方で躍進した企業があります。それがドン・キホーテです。ドン・キホーテは、総合スーパーとは逆の発想でした。狭い通路、圧縮陳列、宝探しのような売場づくり、深夜営業。

さらにユニーをグループ化し、アピタやピアゴをMEGAドン・キホーテへ転換することで、大型店舗を再生させています。大型店舗そのものが悪いわけではありません。重要なのは、その建物を時代に合わせてどう使うかなのかも知れません。

流通業界では、「店舗を増やせば勝てる」という時代は終わりました。これから求められるのは、大きな店舗を持つことではなく、消費者の生活スタイルの変化に合わせて店舗の役割そのものを変え続けることなのでしょう。

HOMEPLUSの経営危機は、韓国だけの話ではありません。日本の流通業界にとっても、これからの大型店舗のあり方を考えさせられる出来事だと感じています。

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