修理
2026年10月01日 04:01
電気自動車(EV)について、以前から気になっていたことがあります。それは「事故を起こした時」のことです。電気自動車は、大容量の駆動用バッテリーを床下などに搭載しています。当然、ちょっとバンパーをぶつけた程度なら普通に修理できますが、事故によってバッテリーや高電圧系統、その周辺まで大きなダメージを受けると、修理費が非常に高額になることがあります。
これは「EVは事故を起こしたら修理できない」という単純な話ではありません。修理そのものは可能でも、バッテリー交換などを含めた修理費が高額になれば、「そこまでお金をかけて修理するなら全損扱い」ということになる場合があります。つまり「物理的に修理できない」のではなく、「経済的に修理する意味がなくなる」ということです。
ここまではガソリン車にもある話ですが、電気自動車にはもう一つ、ガソリン車にはない大きな問題があります。それが「補助金」です。
現在、電気自動車を購入すると、車種によって国からCEV補助金を受けることができます。さらに東京都をはじめ、独自にEV購入への助成を行っている自治体もあります。
購入するときには、「国からこれだけ補助金が出ます」「東京都からもこれだけ出ます」「ですから実質的にはこの金額で購入できます」という説明を受けます。確かにこれは大きなメリットです。
しかし、このお金は単なる「値引き」ではありません。補助金を受けて購入した車には「処分制限期間」が設定され、その期間中に売却、下取り、譲渡、廃棄などを行う場合には「財産処分」という手続きが必要になります。当然、事故で廃車にする場合も「廃棄」ですから、勝手に処分していいわけではありません。ここで問題になるのが「全損事故」です。
例えば補助金を利用して電気自動車を購入したとします。ところが購入から1年後に事故を起こしてしまった。バッテリー周辺まで損傷して修理費が高額になり、保険会社から全損扱いと判断された。
普通なら、「仕方ない。同じ車をもう一度買おう」となります。ところが、補助金を受けて購入したEVの場合、話はそれほど簡単ではありません。処分制限期間中の車を廃車にするには、まず財産処分の手続きが必要になります。
そして事故だからといって、必ず補助金の返還が免除されるわけではありません。国のCEV補助金には、「過失の無い事故により走行不能となり抹消処分した場合」には、本人の責めに帰さないやむを得ない事情として、補助金を返納しなくてよいという規定があります。
ただし、その場合でも何もしなくていいわけではありません。「財産処分承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。
逆に、自損事故や自分にも過失がある事故などでは、この「過失の無い事故」という条件にそのまま当てはまるわけではありません。事故の状況によっては、処分制限期間中に廃車することで補助金の返納が必要になる可能性があります。
そして私が最も気になったのが、その先です。「だったら補助金を返して、同じEVをもう一台買えばいいじゃないか」と思いますよね。
ところが、国のCEV補助金には、「処分制限期間内にある車両を処分して、新たに補助対象車両を購入する場合、処分した車両の補助金返納が完了するまで、新たな車両への補助金は交付できません」というルールがあります。
つまり、事故で車を失ったからといって、すぐに同じEVを同じ補助条件で買い直せるとは限らないのです。
もちろん、同じ車を自費で購入すること自体が禁止されているわけではありません。問題は「補助金」です。最初のEVを購入するときに補助金を前提としていた人なら、これは結構大きな問題になると思います。
実際、知人のレース関係者に、日産の電気自動車「サクラ」を買って約1ヶ月後、信号のある交差点で停止中に後ろから突っ込まれた方がいます。
車両の損傷はかなり大きく、修理代だけでも300万円コース。普通に考えれば全損扱いになってもおかしくない事故です。
ところが本人によると、全損にして廃車にすると補助金の返還免除にならない可能性があるとディーラーから説明され、結局、ほぼ全損ともいえる車両を大掛かりに修理して、そのまま乗り続けています。
これを聞いた時に私は、「事故なんだから特例で、同じEVへの買い替えなら、そのまま補助対象で良くね?」と思いました。
本人がEVをやめてガソリン車に乗り換えるというならともかく、事故で失ったEVを同じEVに買い替えるわけです。それならEV普及という補助金本来の目的にも反していないように思います。ところが、事はそんなに簡単ではないようです。
電気自動車を購入するときには、「国と自治体からいくらもらえるのか」だけではなく、「もし明日事故で全損になったら、この補助金はどうなるのか」まで確認してから購入した方がよさそうです。
補助金は「値引き」ではありません。そこには条件があり、事故で車を失った時にまで、その条件が関係してくる。EVを購入するなら、これは知っておいて損はない話だと思います。
こんなもん、変な補助金とかあるから問題になるわけで、最初からそんな制度無くしちゃえばいいじゃん、とも思うのですが、補助金を無くしたらEVの販売にどの程度影響するのかという、また別の問題も出てきます。
そして、私がもう一つ気になるのが中古車です。先ほど書いたように、知人は普通なら全損扱いになってもおかしくないほど大きな事故に遭ったEVを、大掛かりに修理して乗り続けています。
もちろん、適切な方法で修理され、安全性が確認された車なら、修理して乗り続けること自体に問題があるわけではありません。しかし、こうした車が将来売却され、中古車市場に出てくる可能性は当然あります。
ガソリン車でも修復歴の有無は中古車を選ぶうえで非常に重要ですが、EVの場合は、それに加えて駆動用バッテリーや高電圧系統が事故でどのような影響を受けたのかという問題もあります。
「修復歴あり」と書いてあるだけでは、その事故がどの程度のものだったのか、バッテリー周辺まで衝撃が及んでいたのか、購入する側にはなかなか分かりません。
そしてもし、補助金の返還や財産処分の問題があることで、「廃車にするより、大掛かりな修理をしてでも保有し続けた方がいい」という判断につながるケースが実際にあるのだとしたら、私はそこに少し違和感を覚えます。
EVを普及させるための補助金制度が、結果として、本来なら全損として処理されていたかもしれない車を修理して乗り続ける一つの要因になってしまう。そして、その車が数年後には中古車として市場に出てくるかもしれない。
もちろん、すべての事故車や修復歴のあるEVに問題があるという話ではありません。ただ、中古のEVを購入するのであれば、走行距離やバッテリーの劣化具合だけではなく、「過去にどんな事故に遭い、どこまで修理された車なのか」という履歴についても、ガソリン車以上に慎重に確認した方がいいのかもしれません。
ちょっとこれは、電気自動車の「闇」とまでは言いませんが、EVを買う前に知っておいた方がいい話だと思っている私です。









