ウォーターハンマー

2026年08月15日 07:23

mizu先日、千葉県を襲った記録的な豪雨では、各地で道路が冠水し、ニュース映像では、水につかった車や冠水した道路を走る車を多数見かけました。

こういう映像を見るたびに思うのですが、車で冠水路へ入るのは本当にやめた方がいいと思います。「このくらいの水なら行けるだろう」「前の車も走っているから大丈夫だろう」と思って進入してしまう人もいますが、ガソリン車やディーゼル車のエンジンにとって、水は非常に危険な存在です。

エンジンは空気を吸い込み、それを圧縮して燃料を燃焼させています。空気は圧縮できます。ところが、水はほとんど圧縮できません。エンジンの吸気口から大量の水を吸い込んでしまうと、その水がシリンダー内に入り込みます。

クランクシャフトは勢いよく回転していますから、その状態でピストンが上昇すると、圧縮できない水によって行き場を失った巨大な力がコンロッドなどに加わります。その結果、一瞬でコンロッドが曲がったり折れたりし、ピストンやバルブ、シリンダーなどが損傷して、エンジンそのものが致命傷を負うことがあります。これが、いわゆる「ウォーターハンマー」「ハイドロロック」と呼ばれる現象です。

ここで重要なのは、「しばらく水の中を走っていたら徐々に壊れる」という話ではないことです。吸気口から大量の水を吸い込み、それがシリンダー内に入れば、一瞬で起きる可能性があります。

たとえ冠水がそれほど深くなくても、前の車が勢いよく走れば大きな水しぶきが上がります。車種によって吸気口の位置は異なりますが、ボンネット内にある吸気口へ大量の水がかかり、それを吸い込んでしまえば、ウォーターハンマーを起こす可能性があります。

つまり、エンジンが壊れるかどうかは、単純に水深だけで決まるわけではなく、吸気口からどの程度の水を吸い込むかにも左右されるのです。特に対向車や大型車が作った波には注意が必要です。

冠水した道路では、運転席から水深を正確に判断することができません。JAFでは、一般的な乗用車で走行可能とされる水深は「ドアの下端、つまり床面が浸からない程度」とした上で、実際の冠水路では水深が分からないため、安易に進入せず迂回するよう呼びかけています。

ただ、私がもっと怖いと思うのは、水でエンジンが壊れるかどうかよりも、「水面の下に何があるのか判別できない」という点です。

普段なら何の問題もない道路でも、豪雨の最中や直後には同じ道路とは限りません。
・舗装が陥没しているかもしれない。
・道路が崩れているかもしれない。
・側溝との境目が分からなくなっているかもしれない。
・マンホールの蓋が外れているかもしれない。
・路肩が流されているかもしれない。

つまり、水深20cmに見えたとしても、その先に突然1mの穴が開いている可能性だってあります。先日の千葉豪雨でも、道路が大きく窪んだり、路肩が流されたりしている場所が確認されています。つまり、「水深が浅そうだから走れる」という判断そのものが成立しないわけです。

そして、この問題は豪雨だけではありません。私が特に怖いと思っているのが、大地震発生時です。

大地震では、埋立地や地下水位の高い砂地盤などで「液状化現象」が発生することがあります。地震によって砂の粒子同士の支えが失われると、地盤がドロドロの液体のような状態になります。すると地下から水や砂が噴き出す「噴砂」が発生したり、道路が沈下・隆起したり、亀裂や段差ができたりします。さらに地下にあるマンホールや下水管が浮き上がることさえあります。

国土交通省も、液状化によって地盤から水が噴き出し、マンホールや埋設管が浮き上がったり、道路面が変形したりすることを説明しています。

東日本大震災でも、千葉県内を含む広い地域で実際にこうした被害が発生しました。千葉県香取市ではマンホールの浮き上がり、浦安市では地盤沈下や噴砂などが確認されています。

ここで重要なのは、地震による液状化で道路にあふれてくるものは、単なる「雨水」ではないということです。地下水と大量の砂や土が混ざった、いわば泥水です。道路の白線も、縁石も、側溝も見えなくなり、その泥水の下では地面そのものが変形している可能性があるわけです。

豪雨による冠水なら「いつもの道路が水につかっている」というケースもありますが、液状化した道路では、「水の下にある道路自体が、地震前とは違う形になっている可能性がある」わけです。

実際に私も、阪神・淡路大震災の際には液状化している道路を車で走行し、地割れに3回も落下しました。単に運が良かっただけで、3回とも大型トラックが通りかかり、牽引ロープを持っていたため引き上げてもらうことができました。

この経験があったので、東日本大震災の際には大洗で津波に遭遇したのですが、高速道路の高架上という安全を確保できる場所にとどまり、水が引くまで動かずにいることができました。

そんなわけで、私は「道路が冠水して路面が見えなくなったら、そこから先には進まない」というくらい、単純なルールにしておいた方がいいと思っています。

今回の豪雨で亡くなられた8名のうち、車内に閉じ込められて亡くなられた方は3名にも及びました。

冠水が始まってから「まだ車で行ける」と考えるのではなく、危険を感じたら早めに安全な場所へ移動する。そして、車内に水が入り始めるような状況になれば、脱出できるうちに車外へ出るという判断も必要なのだと思います。

「水で路面が見えなくなったら、その先には進まない」

車を守るためではなく、自分の命を守るため、これくらい単純に考えておいた方がいいのではないかと思っている私です。

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