2026年07月22日 06:47

VW(フォルクスワーゲン)はどこへ向かっているのか

スクリーンショット 2026-07-22 054433私の世代から見ると、VW(フォルクスワーゲン)は単なるドイツの自動車メーカーではありませんでした。その昔は、ドイツのクラフトマンシップが感じられる素晴らしい車を製造していた企業でした。

私が初めてVW車を保有したのは1987年のカナダ・バンクーバー。14年落ちの1973年型TYPE1、いわゆるビートルでした。初代フューエルインジェクション車で、ボッシュのコンピューターが壊れまくっていましたが、キャブレターに換えると見事なまでの走りを見せてくれました。

南米ブラジルで生産されたTYPE1は「Fusca(フスカ)」として国民車のような存在になり、TYPE2(バス)のKombi(コンビ)も、人や荷物を運ぶ生活の足として長年親しまれ、メキシコでもTYPE1は「Vocho(ボチョ)」と呼ばれ、タクシーなどで大量に使われました。

VWの強さは、ドイツで作った車を世界中へ輸出したことではありません。VWの凄さは、海外への現地生産対応の早さにもありました。その国へ入り込み、その国で作り、その国の人たちが使う車になったことです。それは中国でも同様でした。

上海汽車と組んでサンタナを現地生産。以前の中国では、タクシーも社用車もVWだらけという時代がありました。「自動車と言えばVW」と言っても大げさではないほどの存在感だったのです。

日本でも同じです。長年、輸入車No.1と言えばVWという時代がありました。その成功を支えたのが、輸入車販売の帝王とも言えるヤナセです。「ヤナセで買った輸入車は安心」そんな時代に「VWはヤナセで一番安い車」として日本市場へ深く浸透していきました。

ところが、VWは日産と組んでサンタナの国内生産に乗り出しました。さらに、ヤナセに依存しない独自の販売網を作った上、あろうことかトヨタ系販売店と組んだDUOという販売網も展開しました。

日産製サンタナは商業的には失敗でした。VWとの関係が薄くなったヤナセは、当時GM系だったオペルの販売へ力を入れるようになります。そして気が付けば、ヤナセで売っていたオペルは日本市場から撤退し、VWもかつてと比較すれば影の薄い存在になってしまいました。

私はビートル以降も様々なVW車を保有してきました。ゴルフ2のDというディーゼル車、2代目ポロ(日本初導入モデル)、ゴルフ4カブリオレなどにも乗ってきました。母は私の2代目ポロを受け継ぎ、その後もゴルフ4バリアント、ポロ4と、現在までVW車に乗っています。

つまり、私は決してVW嫌いではありません。むしろ長年VWを見続け、実際に乗り続けてきたからこそ、最近のVWが気になるのです。

現在のVWグループは、アウディをはじめ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベントレー、シュコダ、セアト、クプラなど、多くのブランドを傘下に持つ巨大グループです。一時はトヨタと世界販売台数トップを争うまでの規模に成長しました。まさに自動車帝国でした。

ところが、そのVWが長年大きく揺れています。最初の大きなほころびは、2015年に表面化したディーゼル車の排ガス不正問題でした。VWは排ガス試験時だけ規制値を満たすよう制御するソフトウェアを使用していたことが発覚し、世界的な信用問題へ発展しました。

そして次に中国です。かつて圧倒的な強さを誇った市場で、中国メーカーが急成長しました。昔のように「中国で作ったVWだから売れる」という時代ではありません。中国メーカーが、EV、PHEV、ソフトウェア、運転支援、価格の全てで競争力を高めていて、今の中国には、VWが簡単に入り込める隙間はほとんどないように見えます。

南米も同じです。かつてフスカやKombiで市場を席巻したブラジルにも、中国メーカーが急速に進出しています。VWが得意としてきた「現地生産」と「価格競争力」という戦略を、今度は中国メーカーが使い始めているわけです。

そして日本。私は現在の日本市場を見ると、VWというブランドの存在意義そのものが分かりにくくなっているように感じます。

車好きから積極的に選ばれない、リセールバリューも強くない、輸入車としてのプレステージ性もそれほど高くない。若い人の言葉を借りれば「ビミョー」といった感じでしょうか。

もともとVolkswagenとは「大衆の車」という意味です。ところが、その大衆車が今では決して安くありません。日本で新車を買う場合、ポロでも300万円近い価格帯から、ゴルフなら350万円を超える価格帯からになります。

この価格になれば、日本車ならハイブリッド車やSUVを含めて選択肢は一気に広がります。もう少し予算を増やせば、プレミアムブランドのエントリーモデルも視野に入ってきます。では、その中であえてVWを選ぶ理由は何なのでしょうか。

昔のゴルフには明確な存在意義がありました。「日本車より少し高い」「ベンツやBMWよりは圧倒的に安い」「ドイツ車らしい高速安定性や剛性感がある」。つまり「少し頑張れば買えるドイツ車」という絶妙なポジションにいたのです。

今は大衆車としては高い、しかしプレミアムブランドではない。ここが非常に難しいところだと思います。

そして、さらに大きな問題がEV戦略です。VWは巨額の資金をEVへ投入しました。EV専用プラットフォームを開発し、工場をEV生産へ転換し、ソフトウェア開発にも大規模な投資を行いました。しかし、VWが期待したほどEVは売れませんでした。特に最大市場だった中国では、VWのEVより中国メーカーのEVが支持されています。

巨額の先行投資を行った一方で販売が計画通りに伸びず、VWは今、大規模なコスト削減、人員削減、生産能力の縮小を進めています。

もちろんVWグループは、明日なくなるような会社ではありません。世界最大級の自動車グループであり、アウディもポルシェもランボルギーニもあります。しかし問題は、「VWブランドそのものが、これからどこで成長するのか」が見えにくいことです。

中国では中国メーカーが強い。南米にも中国勢が入ってくる。日本では大衆車としては高く、プレミアムブランドとしては中途半端。そしてEVでは巨額の先行投資を抱えながら、戦略の見直しを迫られています。

かつて世界中で「大衆の車」を作り、その国の生活にまで入り込んでいったフォルクスワーゲン。長年VW車に乗ってきた一人としても、これからのVWがどこへ向かうのか。今後の動向から目が離せません。

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